高齢者の高血圧と食事|減塩だけじゃない「ナトリウムとカリウムのバランス」を専門家が解説

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「血圧が高いと言われたから、とにかく塩分を減らさなきゃ」。高血圧と診断されると、多くの方がこう考えます。もちろん減塩は大切なのですが、理学療法士・介護支援専門員として高齢者に関わってきた経験から、高血圧については意外と知られていない大切な視点がいくつかあると感じています。この記事では、高齢者の高血圧と食事について、最近の医学的な知見も交えながらお話しします。
最初にお断りしておくと、この記事は一般的な情報をお伝えするものです。血圧の管理や薬については、必ず主治医の指示に従ってください。特に、今飲んでいる薬を自己判断でやめたり減らしたりするのは危険なので、絶対にしないでくださいね。
「高血圧=とにかく悪い」とは限らない
まず、少し意外に思われるかもしれない話от от始めます。高血圧は無条件に悪いことのように言われがちですが、現場で高齢者を見てきた経験から言うと、話はそう単純ではありません。
血圧が高いということは、確かに血管に負担がかかっている状態ではあります。でも見方を変えると、しっかりと体の末端や脳の奥まで血液を送り届けて、酸素や栄養を行き渡らせているということでもあるんです。
むしろ介護の現場では、血圧が低すぎることによる問題も多く見られます。立ちくらみやふらつきで転倒してしまったり、血圧が下がりすぎて倒れてしまったり。高齢者にとって転倒は、骨折から寝たきりにつながる大きなリスクです。実際、血圧が高めの方の方が認知症になりにくかったという研究もあり、高血圧を一律に悪者扱いすることには、私自身は少し疑問を持っています。
もちろん、血圧が高い状態が続けば動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞のリスクが高まるのも事実です。だから過剰な高血圧は control する必要があります。ただ、「正常範囲に戻すこと」だけを目的にして、体全体のバランスを見失ってしまうのはどうなのかな、と感じることがあるんです。
降圧剤との付き合い方も考えたい
高血圧と診断されると、内科では塩分を控える指導とともに、降圧剤という血圧を下げる薬が処方されることが多いです。血圧を診断基準の正常範囲に戻すという観点では、これは正解です。
ただ、現場で見ていると、いくつか気になるパターンもあります。降圧剤で血圧を下げているうちに、薬に頼らないと血圧をコントロールできなくなってしまう方。血圧が下がったからと安心して、暴飲暴食をしてしまう方。そしてまた血圧が上がって薬を強くして、という繰り返しになってしまう方もいます。
薬が必要な方はもちろんたくさんいますし、薬を否定するつもりは全くありません。ただ、薬に全部任せてしまうのではなく、食事や生活習慣を見直すことで、体本来のバランスを整えていく視点も大切にしたいと思っています。繰り返しになりますが、薬の調整は必ず主治医と相談してくださいね。
最近の常識「ナトリウムとカリウムのバランス」
ここからが、高齢者の分野ではまだあまり広まっていない、でもとても大切な話です。
塩分が血圧に関わっているのは確かです。でも近年の研究では、塩分、つまりナトリウムを減らすことだけでなく、カリウムとのバランスが重要だと言われるようになってきました。日本高血圧学会も2024年のガイドラインで、減塩と並んでカリウムをしっかり摂ること(1日3,500mg以上)を重要な対策として位置づけています。WHOも2025年に、ナトリウムの一部をカリウムに置き換えることを推奨する方針を出しました。
なぜカリウムが大切かというと、カリウムには腎臓でナトリウムが再吸収されるのを抑えて、余分なナトリウムを体の外に出す働きがあるからです。つまり、塩分を摂りすぎてしまっても、カリウムをしっかり摂っていれば、その分ナトリウムが尿として排出されやすくなるんです。
高血圧の人こそカリウムを摂った方がいい
ここで一つ、誤解されやすい点があります。腎臓が悪い人はカリウムの摂取を control しなければいけないと言われるので、その情報が広まって、高血圧の人までなんとなくカリウムを避けてしまうことがあるんです。
でも実は逆で、腎臓が悪くて医師から止められている場合を除けば、高血圧の人こそカリウムをしっかり摂った方が、体全体のバランスとしては良いと言われています。カリウムは野菜、果物、いも類、豆類、海藻などに多く含まれています。バナナ、トマト、ほうれん草、さといも、納豆、アボカドなどが代表的です。
ただし、これは腎臓の機能が正常な方の話です。腎臓病や透析をしている方はカリウムの制限が必要なので、必ず主治医に確認してください。自分の腎機能がどうなっているか分からない方も、まずは主治医に相談してから取り入れるようにしましょう。
「塩の質」にも目を向けてみる
もう一つ、高齢者を見ていて感じるのが「塩の質」の問題です。
お年寄りは、真っ白な「食塩」を食事に使いがちです。あの精製された白い塩は、生成されすぎていて、ほぼナトリウム(塩化ナトリウム)だけの状態になっています。つまりナトリウムの比率がとても高いんです。
一方で、岩塩や天然塩、あら塩のような塩には、精製されていないぶん、マグネシウムやカリウム、カルシウムといった他のミネラルも含まれています。「不純物」として悪者のように言われることもありますが、これらのミネラルはむしろ体にとって大切な働きを持っています。同じ塩を使うにしても、精製塩から天然塩に切り替えることで、ナトリウムばかりを過剰に摂るのではなく、他のミネラルもバランスよく摂れるようになります。これも一つの工夫です。
カリウム代替塩という選択肢
さらに最近注目されているのが、カリウム代替塩です。これは、塩の主成分であるナトリウムの一部を、カリウム(塩化カリウム)に置き換えた塩です。塩化カリウムも塩と同じようにしょっぱい味がするので、料理の味を保ちながら、ナトリウムの摂取を抑えられるという仕組みです。
WHOも代替塩の使用を推奨していて、研究では血圧を下げる効果が報告されています。減塩がどうしても続かない、味気なくて食が進まないという方には、有効な選択肢になります。ただし、これもカリウムを含むものなので、腎臓が悪い方は使えません。必ず主治医に相談してから使ってください。日本高血圧学会のサイトに減塩食品のリストも掲載されているので、参考にするといいでしょう。
要注意!「健康に良さそう」で逆効果になっていることも
現場で高齢者を見ていて、ときどき「おっと」と思うことがあります。それは、ポカリスエットやアクエリアスといったスポーツドリンクを、積極的に飲んでいる方がいることです。
「ミネラルが摂れて健康に良さそうだから」という理由で飲んでいるのですが、しかもこれが「塩分が高いと言われたから、水分と一緒にミネラルを補おう」という発想だったりします。ところが、これらのスポーツドリンクに含まれているのも、実はナトリウムなんです。つまり、良かれと思って、追加でナトリウムを余計に摂ってしまっているという状態になりがちです。
さらにスポーツドリンクは糖分も多いので、飲みすぎは血糖値の面でも心配です。熱中症対策などで必要な場面もありますが、「健康に良さそう」というイメージだけで日常的にたくさん飲むのは避けた方がいいでしょう。水分補給は基本的に水やお茶で十分です。
高血圧の食事で大切にしたいこと
ここまでの話をまとめると、高齢者の高血圧の食事では、次のような視点が大切だと考えています。
まず、過剰な塩分は控えるべきですが、しょっぱいものすべてが悪いわけではありません。塩の質に目を向けて、精製塩から天然塩に切り替えたり、腎臓に問題がなければカリウム代替塩を使ったりする工夫があります。そして、腎臓が悪くなければ、カリウムを多く含む野菜や果物をしっかり摂って、ナトリウムとのバランスを整えることが大切です。「減塩」だけでなく「ナトリウムとカリウムのバランス」という視点で食事を考えていくと、より体全体の健康につながります。
ただ、こうしたバランスを毎食自分で考えて調理するのは、なかなか大変です。特に一人暮らしの高齢者や、調理が難しくなってきた方にとっては負担が大きいですよね。そういう場合は、管理栄養士が栄養バランスを設計した宅配弁当を活用するのも一つの方法です。塩分に配慮しつつ、野菜もしっかり摂れるメニューが用意されているので、自分で細かく計算しなくても、バランスの取れた食事ができます。
塩分に配慮した宅配弁当については、こちらの記事で詳しく紹介していますのでご覧ください。
→【減塩の宅配弁当おすすめ5選|高齢者の塩分制限食をデイ元管理者が解説】
まとめ
高齢者の高血圧は、「とにかく血圧を下げればいい」「塩を減らせばいい」という単純な話ではありません。血圧が低すぎるリスクもありますし、降圧剤との付き合い方も考えたいところです。そして食事では、減塩だけでなく、ナトリウムとカリウムのバランス、塩の質にも目を向けることが、これからの新しい常識になりつつあります。
ただし、カリウムの摂取や塩の切り替えは、腎臓の状態によっては制限が必要です。そして何より、血圧の薬は自己判断で調整せず、必ず主治医に相談してください。正しい知識をもとに、体全体のバランスを考えた食事で、無理なく高血圧と付き合っていきましょう。
食事のことで気になることがあれば、担当のケアマネジャーや主治医、管理栄養士に相談してみてくださいね。


